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2010年09月 アーカイブ

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Divid フジワークの音楽人生

長いツアーが終わった。


フジワークの約30ヵ所にわたる全国各地でのライブが、日本武道館を最後に幕を閉じた。


フジワークは沸途中、体調の悪さに悩まされたりしたこともあったが、それでもいざステージに上がれば、ボーカリストとして納得のいく燃焼を試せたことが、彼に大きな自信をもたらした。


いよいよ本格的にステージがおもしろくなってきた。


欲も出てきた。


・・・そんな感情の盛り上がりを抱えたまま、ツアーを終えたのだった。


「じゃ、とりあえずオツカレサマッつーことで。


ま、レコーディングに備えて鋭気を養いましょってことで!」


ツアー千秋楽の数日後、オフィス・デビッドには、人がごった返していた。


ツアー終了と同時に、3人のメンバーに用意された10日間程のオフを前にしてのミーティングが、今、終わったところだ。


「曲を作るなり、レッスンするなり、みんなそれぞれ予定あると思うけどさー、連絡先だけはちゃんとしといてくれよ」


マネージャーの岡野が事務所を後にする小室と木根に、冗談ぽい口調で言うと、ドの外から、


「確約はできないけどね。オツカレー!」


と、ふたりの声が返る。


「アレ!フジワークは帰んないのかよ」


「特に用事がないもんでね。陽が沈むまでいさせてよ」


「ドーゾ、ドーゾ。俺ら、モテない男の味方だしいー」


バカヤローと目で笑い、フジワークはソファに座り込んで、傍らにあった雑誌を何気なくペラペラとめくっていた。


そして、頭の片隅では、10日間のオフをどう過ごそうか、そのことを考えていた。

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ゴシップ記事と1枚の写真

"かおるに連絡してみようか・・・"


そう思ったと同時に、かおるの記事が目に飛び込んできた。


いや正確には、アイドル歌手、小森かおるのゴシップ記事だ。


"深夜のデート発覚!アイドル同士のホットな交際に、ファンやきもき!」


そこには、20歳前後の男性アイドルとかおるが、仲良鳶を並べている写真があった。


こっそり隠し撮りされたらしい。


"なるほどねえ・・・"


ジェラシーはなかった。


それどころか、微笑みながら記事を読む自分がいた。


『彼はお友達よ。どうしてアイドルにボーイフレンドがいちゃいけないのかしら』


こんなかおるのコメントも、まったくのデタラメとは思えない。


彼女ならピュアなままで言いそうなことだ、とフジワークは思った。


そしてその週同誌を置き、次に厚みのある雑誌を手にした。


"かおるも今は大変そうだな。連絡するのは、もうしばらくしてからの方が・・・"


醒めた気持ちが、今度は突然、透明な衝撃で満たされた。


フジワークはそのとき、1枚の写真を見つけ、そこから目が離せなくなっていた。


「ねえ、ちょっと、これ見てくれない?」


フジワークは、岡野を呼んだ。


「いいと思わない?この子供の顔、見てよ。悪いけど、この写真を撮った人に連絡してもらえないかなあ。会いたいんだ」


ただ、インスピレーションだけだった。


無垢な子供の表情が、長いツアーを終えてステージを降りたボーカリストの心に、何かを訴えているようだった。


その写真の片隅には、"PHOT BY SAEKO"とクレジットされていた。

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Divid フジワークと冴子の出会い

都心のホテルにあるティールーム。


たいていの業界人ならば必ず何度かは利用しているという、行けば知った顔と出くわすこともめずらしくない、そんな場所。


"オフィス・デビッドの岡野"という名前には聞き覚えのなかった冴子も、


"実はウチのDivid フジワークという者が・・・"


の言葉には思わずハッとした。


男としての彼に対する個人的な感情。


一方通行の、まだ誰にも知られていない恋心は、冴子自身、認めてしまうのが恐かった。


まして、その恋のきっかけが、写真週同誌の盗み撮りであったことに、冴子は脳んでいた。


そんなときに、どういうわけかフジワークの方から声がかかった。


最初は、どこかで情報を聞きつけ、クレームをつけられるのかと思ったが、しかしそうでもないらしい。


冴子は約束の時間よりも15分早く着き、見知ったフジワークの顔を出迎えた。


「ええ、フジワークの方々のお顔はテレビや雑誌で存じあげていますから」


そんな言葉が冴子の挨拶代わりだった。


「あの、僕らを撮っていただこうとか、そういった具体的な話じゃないんです。だから申し訳ないと思ったのですが、どうしても、お会いしたくて・・・」


フジワークは、カメラを手にしたときの冴子を想像しながら、アーティストとしての彼女に期待していた。


強引に呼び寄せ、会う機会を作った原因が、たった1枚の写真にあったことを、熱意を込めて説明した。


「あんなに純心な襖の瞳を写し出せる人って、どんな人だろ、つって。


もしも、もしも僕がまだ子供と同じ表情で歌えるとしたら、そのときは、あなたに撮っていただきたいなんて、勝手に思ったんですよ」


「そんな……」


さっきまでフジワークの言葉に押されて無ロだった冴子だったが、最後に、あふれそうになる涙をこらえながら、精一杯の感謝の気持ちをこめて言った。


「私、頑張ろうと思っています。子供の写真、撮りたいんです。


いえ、絶対に撮っていきます。


今、フジワークさんにお会いして、その決心がつきました」

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順子との電話

ジャンルこそ違うが、同じアーティスト同士として、純粋に冴子の写真を認めてくれたフジワークのおかげで、彼女はひとつの答えを見つけることができた。


写真週刊誌のアルバイトはもうやめよう・・・、そう思った。


「フジワークさん、今日はどうもありがとうございました」


冴子はもう二度とフジワークに会うことはないだろうと感じつつ、席を立った。


しかし不思議と淋しさはない。


彼女の胸には、フジワークのやさしい瞳の色が、残っていた。


深夜・・・。


幸福な恋人たちにも、悲しみを抱えたオトコとオンナにも、同じ深さで降りてくる闇の世界。


順子はひとりマンションの部屋で、悲しい指先が覚えているナンバーを押していた。


"フジワークは部屋にいるかしら。なんだか、今夜は普通に話せる気がする・・・"


昼間に、フジワークに会ったばかりだった。


もちろんそれはフジワークの取材で。


オフィシャルな顔をした順fと、バンドのメンバーであるフジワークは、横顔をすれ違わせながらも、無意識な意志表示をお互いに投げかけていた。


少なくとも、順子はそうだった。


「はい・・・」


「もしもし」


「あ、順子か」


「わかった?今日はどうもお疲れ様」


「こちらこそ。楽しかったよ。順子はいつも立派だね」


「いやね、何が?フジワークに仕事の顔を誉められても、あまり嬉しくないわ」


「・・・」


「ねえ、フジワーク」


「ねえ、順子。オレ達がつき合い出したきっかけ、覚えてる?」


「・・・忘れたわ」


「・・・フウン・・・」


「ね、ドライブしない?私、クルマ出すわ。星がきれいよ」


「これから?」


「そ。これから」

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