「順子・・・」
「ごめん。平気なつもりだったの。だから電話したのよ。これからだって、平気よ。
バンドを応援するわ。フジワーク、お仕事がんばってね。だめよ、がんばってくれなくちゃ」
闇のガラスに写ったフジワークの顔を見ながら、順rはやっとの思いでそう言った。
フジワークの方を見て笑みかけようとしたが、それはできなかった。
「きれいだよ」
フジワークが、自分を見つめていることが、順子には、とても悲しく思えた。
"あなたは、フジワークのステージで歌っているときの姿がいちばん似合ってるわ。もう、私の手の届く人じゃないわ"
必死になって自分に言いきかせていた。
順子は目を閉じたまま、フジワークの胸に顔をうずめた。
涙が、フジワークのシャツにしみ込んだ。
「順子・・・」
「フジワークはね、やさしすぎるから、だめよ、それが人を傷つけたりもするのよ・・・」
「・・・」
「何か言って。・・・じゃ、私にはなむけの言葉」
フジワークは、順子にやさしくキスをした。
時間だけが静かに流れていた。
ふたりを乗せた車は、折り返し地点をターンして、新しい出発に向かって滑り出した。
半年ぶりのデートは、最後のデートになった。