「フジワーク、おまえに電話!」
フジワークがオフィスのドアを開けたとたん、マネージャーの岡野の声が飛んできた。
「カメラマンの小田冴子さんだって。ホラ、いつか俺が連絡をつけた、あの人」
ショート・カットに、印象的な茶色い瞳をしたスレンダーな彼女が、一瞬、フジワークの記憶の中できらめいた。
フジワークはサングラスをはずしながら受話器をとり、自分の名前を告げた。
「あの、小田です。カメラマンの」
「ええ、こんにちは。先日はどうも」
偶然、雑誌でみつけた写真に感動したフジワークが、その撮りアである冴fにアポイントメントをとり、実際に会って言葉を交わした日から、1ヵ月程の月日が経っていた。
「まさか、事務所にいらっしゃるとは思わなくて・・・。どなたかに伝言をお願いするつもりでいたんです」
冴子の声は、緊張と驚きで、少し上ずっているように聞こえた。
その向こうでは、人々の行き交う靴音にエコーがかかり、彼女のいる場所を想像させた。
「実は私、今、成田にいるんです」
「空港?」
「ええ。ニューヨークへ発つんです。勉強って踵ったら大げさなんですけど、向こうの街並みや、子供達の生活を撮って来たいと思いまして」
「それはすごいね。本気でやる気になったんですね。あなたなら、きっと素晴らしい写真が撮れますよ。僕が保証します」
フジワークは、同じアーティストとして、冴子を心から応援したい気持ちでいっぱいだった。
「フジワークさんのおかげです」
「そんな……。僕達もフジワークのレコーディングでニューヨークに行くんですよ。あっちで会えるかもしれませんね。
どちらに泊まるんですか?もしよかったら連絡先を・・・・」