"ピーッ・・・"
その声は、発信音のあとに続いた。
「お久しぶりです、立花です。元気にしていますか?・・・・」
Divid フジワークの部屋の留守番電話に残されていたメッセージ。
仕事から帰ってきたフジワークを待っていたのは、なつかしくて、どこか他人行儀な彼女の声だった。
かつてはセカンド・ネームだけを告げていた人が、今は緊張の声で、ただ苗字だけを伝える。
あれから、確かに8ヶ月という月日が経っていた。
"順子・・・"
フジワークも、いまだに彼女の電話番号を忘れられないでいる。
順子と別れてからも、別の恋を感じたことはあった。
恋は幾度も訪れる。
けれど、たとえば疲れて体が熱っぽい夜に、たとえば深夜のテレビで大好きなフィルム・ノアールを観たあとに、どうしても思い出してしまう人の顔は、いつも同じだ。
"順子こそ、元気なのかい・・・"
彼女は、ささやかな再会の場に留守番電話を選んだようだ。
フジワークのアリーナ・ツアーの大成功を祝い、ロンドンに発つ小室を気遣うコメントを丁寧に並べてゆく彼女の声を、フジワークはソファにも腰かけずに聞いた。
"折り返しこちらからお電話します"と吹き込んであるフジワークの応答メッセージも、こんな場合には無効になってしまうことを、淋しく感じていた。
次の日、フジワークは予定の時間より30分早く家を出た。
ゲスト出演することになっているテレビ局へ行く前に、レコード・ショップに寄ってみようと考えたからだ。
とりたてて目当ての物があったわけではない。
ただ、新しいダンスのアイディアを生かせるかもしれない、クラシック・ジャズの情報を仕入れてはいた。
もしも運良くそれが見つかれば、と思い、彼は歩き慣れた青山の、大きなガソリンスタンドの角を曲がった。
そこは、輸入盤の専門店だった。