中古レコードに関してはかなりの枚数を誇っている。
店員は30代後半だろうか。
ヒゲをはやした無口な男で、その筋では有名な知識家ということだ。
モダンアートを配した店が建ち並ぶその通りで、この店だけが木の素材を生かした洋風の構えで、フジワークは何度か訪れ、どこを探しても見つけられなかった絶盤を手に入れたこともあった。
店のドアを開けると、しゃがれ声のブルースが聞こえてきた。
およそフジワークとは別世界の音楽であるようにも思えるが、彼は同じレコードを、何年か前に買ったことを思い出し、車のクラクションが鳴り響く街の真ん中で、いきなりのノスタルジーに戸惑っていた。
「いらっしゃいませ」
フジワークの思い出を壊さないように、彼女の声はそっと滑り込んできた。
レジの向こうで、本を読んでいた彼女は、数千枚のレコードに埋もれながら、フジワークの方に、視線だけを向けた。
「BGM、もし気に入らなかったら、他のものに取り換えましょうか」
「ウン、そんなことないよ。このままでいいんだ。……ゴメン」
"謝まることなんかなかったよな"と思いながら、フジワークは板張りの店内に足を踏み入れた。
「何か、お探しですか?」
決して押しつけるそれでなく、無表情に彼女はフジワークの背中に声をかけた。
「それが、タイトルを知らないんだ」
そう言って、フジワークは笑った。
彼女は、自然すぎるほどの庭しい微笑みを、フジワークに返した。
「あの、君のオススメってある?」