« 順子との電話 | メイン | 順子とDivid フジワークの最後のデート »

半年ぶりのデート

実に、半年ぶりのデートだった。


ふたりとも家にいたときのままの格好で、深夜の高速を走る車の中にいた。


「ねえ、私、きれいになれたかしら」


「え?なんだ、ちゃんと覚えてたんじゃないか、オレ達がつき合うきっかけ」


「忘れるわけがないわ」


「2回目の取材のあとで、順子がきれいになりたいって、言ったんだよな。


雑談にしても、ヘンな女だと思ったよ、あのとき」


「フジワークったら、恋をすればきれいになれる、なんてキザなこと言ったのよ」


「そしたらマジな顔して"でも相手がいないの!"なんて言うんだから。オレ、笑っちゃったよ」


「ウソ。笑ったりなんかしなかったわよ。むしろ、少し怒ってるみたいな顔で・・・」


「じゃ、ボクが相手になりましょう」


「・・・そうね。そう言ったんだわ」


順子はハンドルを握り、大きく車間をあけた前方の車のテールランプと、バックミラーに映る東京タワーを交互に見ていた。


フジワークは、通り過ぎていくあらゆる光を、ただ黙って見送っていた。


視線がからまないせいなのか、それとも今夜の気分のせいなのか、ふたりの間に流れる空気は熱もなく淡々と、しかし温かい。


「考えてみれば、妙なきっかけだな」


「きっかけが悪かったのね、フフ・・・」


「しかし、オレは」


「わかってる。あなたは本気で言ってくれてたわ。・・・わかってるわ、そんなことくらい」


思わず語気が荒くなり、順子は慌てた。


フジワークは、そんな順子の横顔を見つめた。


「順子は、きれいになったよ、とても」


「・・・ありがとう、なんて言わないわよ。その言葉の意味、私・・・」


80キロの速度で走り続けるプライベートな夜は、順子の涙でブレーキをかけた。


フジワークの曲が流れる人気のないパーキング・エリアで、順子はハンドルに顔をうつ伏せた。

About

ひとつ前の投稿は「順子との電話」です。

次の投稿は「順子とDivid フジワークの最後のデート」です。

他にも多くのエントリがあります。メインページアーカイブページも見てください。

管理人のお気に入り