複雑な思いが、なかなかカメラマンの注文に応じさせなかった。
"でも順子の気持ちに比べたら・・・"
フジワークは、思いやりと尊敬をこめた眼差しで順子をみつめた。
約2時間後、取材はすべて終わった。
「お疲れ様でした。皆さん、コーヒーが来ましたから、こちらへどうぞ」
広いスウィート・ルームのリビング・スペースに、ルーム・サービスのアイスコーヒーが用意されていた。
「いよいよ明日ですね、ニューヨーク。もう仕度はできたんですか」
「いや、まだまだ、これから帰ってやるんですよ」
ストローを使わずに、木根が冷たいグラスを飲みほした。
「立花さんも、取材に来れば」
小室が順子の顔をのぞき込んだ。
「そうね。ニューヨーク、行ってみたいな」
そう言って、ひとつ微笑みを膝に落とした順子が、今度は思い切ったように言った。
「実は、私、フジワークの担当、変わっちゃうの」
そこにいた全員がエッと驚いた顔になり、順子は、その誰の表情も見ることができないまま、14階の窓から見渡せる東京の街に、視線を投げた。
「どうして?」
取材のときにはいつも無口なはずのフジワークが、堤を切った。
順子は、唇をきゅっと結んだまま、この日初めてフジワークの顔をまっすぐに見ていた。