いつのまにか時間のカウント・ダウンが始まっていた。
フジワークは、その清らかに小さな印象を、1枚のレコードに換えて持ち帰りたいと思った。
「そうね…。駅に向かうなら、小学校の脇を通るといいわ。まだ桜がきれいなの」
彼女の的外れな答えは、シャウトするピアノの首と、トム・ウェイツのせいだった。
しかし、フジワークは「ありがとう」と会釈をしてみせた。
レジの近くに伏せてある読みかけの本は、動物図鑑のようだ。
そしてまるでf供の持ち物のように、大きく"小田冴子"と名前が記されていた。
テレビ局のスタジオ。
「KISS YOU」のビデオ・クリップがかかっている間、フジワークは学校脇の桜の木を思い浮かべていた。
彼女にいわれたとおりに遠回りをして、タクシーの窓からサングラス越しに見た桜は、薄紫色の花びらを暖かい午後にまき散らしていた。
「今、他のメンバーの方は、何をなさっているんですか?」
初対面の男性司会者とは話がはずむわけもなく、小室がロンドンへ行く直前の忙しい状況を幾つか話した。
「それでは、次はCMです」
退屈だった。
無数のライトの点滅が、フジワークを疲れさせた。
フジワークは、誰にも気づかれないようにタメ息をついた。
司会者は、フロア・ディレクターと、エンディングの打ち合わせをしている。
忙しそうに動き回るスタッフ・・・。
ざわざわと雑談を交し合う見学者たち。