立野が立ち去る姿を何気なく見送りながら、ポツンと残されたふたりに何も会話はなく、フジワークは少しだけ不思議に思った。
常に積極的に接してきている彼女が、こんなときにだけ無口だ。
まるで、フジワークの方から話しかけてくるのを待っているような横顔。
「あの」
やはりフジワークから口火を切った。
「今日、遅刻してきてすみませんでした」
「いいえ・・・、打ち合わせが押してるって、マネージャーさんから。
ロンドンに発つまではいろいろ大変でしょ」
なるほど、立野の機転か。
「午前中から仕事じゃ、キツイですよね」
シズカがあまりにも心配そうな表情をして言うので、フジワークは黙っていられなくなった。
「ホントは寝坊なんです。ただの朝寝坊」
「あらヤダ、そうなんだ」
そう言ってシズカはフフフと笑い、次の言葉を探すような表情で一点を見すえた。
「フジワークさんて、アレですね。正直な方なんですね。だったら私も正直に言っちゃおうかしら。
正直なフジワークさんなら、もしもイヤならイヤって、ちゃんと言ってくれるでしょうし」
彼女はイタズラっぽく笑っているような、それともすごく真剣なような、複雑な顔をしてフジワークを見つめた。
フジワークには理由がわからない。