「この作品は、カンヌ映画祭にも出品される予定で、私も、個人的にぜひお推めしたい、素晴らしい映画です。特に主人公の・・・」
ブラウン管の中で、シズカがしきりに喋べっている。
昼間と同じ、赤いワンピースが目についた。
「ではまた来週、お会いしましょう」
決まりきったシチュエーションで、決まりきった言葉をいって、シズカは消えた。
"来週じゃなくて、来月だろ"
フジワークは、ビールを一気に飲み干し、テレビを消した。
留守番電話のスイッチをONにして、ベッドに入った。
目を閉じると、薄紫色の花びらがフジワークの上を舞っていた。
"RRRR……"
電話のベルが2回鳴ると、カチャッと貯がして、テープが回り出す。
"留守電のBGM、そろそろ変えよう"
フジワークはベッドの中で、考えていた。
"ピー"発信音が鳴る。
「フジワーク、新しい曲のデモ、上がったよ。ロンドンに行く前に聞かせたいので、早めに連絡をください」
小室の声に、フジワークは上半身を起こしたが、電話は切れてしまった。
そして、彼の中の"かけ直そう"という信号はすぐに途絶え、フジワークは再びベッドにもぐり込んだ。
"こうしていられるのも今だけだ"
夢の奥深いところで、そんなことを考えていた。
表立った仕事は減ったものの、フジワークの秋以降のリリースやツアーに備え、やらなければいけないことが、フジワークには山程ある。
"あ、あのレコード、買わなかったな"
一瞬、レジの横にいた愛らしい笑顔を、フジワークは思い出した。