ゆうじが小走りに店を出て行こうとしたとき、ビートルズの復刻盤を持った男と目が合った。
「あ」
ゆうじは、フジワークのDavid フジワークをすぐに察知した。
たった今、自分が騒いでいたロンドンに、今や拠点を移しつつあるフジワークのボーカリストがそこにいたのだった。
"余裕見せてんじゃねーよ"。
ゆうじは、彼を振り切るように外に出た。
その後ろ姿を、冴子はじっと見送っていた。
「彼氏、ロンドン行くの?」
フジワークは2枚のレコードを、レジの台に置いた。
「いえ、まだわからないわ。バンドやってるんです、彼、全然売れてないの」
冴子は微笑んだ。
自分のボーイフレンドが無名であることを、むしろ誇りにしているようだった。
その笑顔を、フジワークは複雑な気持ちで受け止めた。
「お客さんも、音楽やっている入なんでしょう。すぐわかるわ」
彼女は、フジワークを知らなかった。
「そうだよ。僕も、明日からロンドンに行くんだ」
「エ、そうなの?すごいわ、ゆうじよりも有名な入ね、きっと」
フジワークは首を振った。
冴子の前では、あの少年よりはるかに無名な自分だった。
「あら、明日からロンドンなのに、ビートルズ?」
「そういえば、おかしいね。でも、向こうではあんまり時間が・・・・・」
ないから、と言いかけて、フジワークは言葉を止めた。