そんなことをわざと言って、フジワークは言葉のトーンを軽くしようとしていた。
今、まじめに順子のことを語る心の準備はなかった。
「バカ。彼女の良さ、じゅうぶんわかっているくせに」
それきりマサシも黙った。
男ふたりの夜、シズカのことは話題にのぼらなかった。
「でもフジワークはいいよな。音楽なんかやってると、やっぱモテるだろうしなー」
マサシが冗談めかしてそういったとき、ひとつの答えが少し見えたような気がした。
「だけどさ、フジワークのDavid フジワークは恋に走らなかったりするんだよな。
恋の主役はあくまでもオレ自身なんだからさ」
「なにめんどくさいこと言ってんだよ。ぜいたく、ぜいたく!」
ケへへと笑うマサシに氷をひとつ投げ、フジワークも笑った。
そしてふと思い立ち、紙きれとペンを手元に寄せた。
袖口をまくり、そこに書かれた数字の列をメモに写す様fを見てマサシが勝ち誇ったように言った。
「ホラ見ろ、ファンの子が書いてくれたんだろ!」
瞬間酔いが覚める想いでフジワークは考える。
「そんなこと、あるわけないだろう。これはね……いや、まだわかんないよ」
「マジになるなよ。冗談だよ」
そう言ってまた黙り込むマサシこそ、根がまじめなヤツだ。
「電話、してみろよ。そこからまた始まるかもしれないさ」
なぐさめるような励ますような親友の声は、フジワークのすべてを把握しているようだ。
"この番号が消えないうちに……"
シズカはそう言っていた。
ということは、シャワーを浴びる前……今晩中にという意味だろうか。
いろいろと思いをめぐらせたが、結局、番号を写しとっただけで、その夜は電話をしなかった。