彼は黙って会釈をして、その棚に向かって歩いて行った。
そのとき、店のドアが、再び開いた。
入って来たのは若い男。
すり切れそうな細身のパンツと衿の抜けた自いTシャツ。
前髪がディップで塗ててある。
彼は、ゆうじ、21歳。
ビート系のロック・バンド"PASSAGE"のギタリストである。
彼は、まっすぐにレジにやって来た。
「冴子、びっくりすんなよ」
高揚して、ゆうじの声は大きい。
「どうしたの。お客さんがいるのよ」
「オレ、ロンドンに行けるかもしれないんだ。欠員が出たんだ、コンプリート・アングルス。右腕骨折、交通事故!オーディション行くんだよ、明日、オレ」
ゆうじは興奮していた。
どうやら海外遠征が決まっているバンドにケガ入が出たらしく、その補充メンバーの候補に、ゆうじがなっているようだ。
冴子はゆうじの顔を見た。
「めずらしいね、ゆうじがこんなに大騒ぎするなんて」
「騒がずにいられるかよ、だって・・・・・」
「瞳れだったもんね、ロンドン。
わかるけど。
素直なところもあるんだね、ゆうじにも」
「ウルセーナー。・・・・・終わる頃、また来るよ」
「ウン」