彼女はフジワークの髪に小さなキスをした。
「今、何時?」
フジワークはやっと口を開いた。
喉が乾いて、声がかすれた。
「エ・・・・・ト、まだ7時よ」
「なんか、お腹すいちゃたな」
「そおね。ルームサービス頼む?」
「うん、それより、外に出ないか?」
「そうね、そうしましょう。ね、だけど、あと少しこのままでいたら、いけない?」
「まあ・・・・・いいけど」
さっきから幾度となく贈られてくる小さなキスに対しては何も返すことのないまま、フジワークはぼんやりと煙草の火を消そうとした。
その指先に彼女のクスクス笑いが落ちてきた。
「何?どうしたんだよ」
「うん。昨日のこと、思い出しちゃった」
「昨日のことって、あのジャパニーズ・レストランのウェイターの顔とか?」
「チーガウ。ま、彼もなかなかキュートだったけどね、たどたどしい日本語で。でもそうじやなくってえ」
「何だよ。オレのこと?」
「そうよ。ヒースローで会ったときの、あなたの顔」
彼女は笑いながらフジワークを見つめている。
「そんなにおかしかった?」
「うん、まあね。少なくともマスコミ関係者には見せられない顔だったわね」
「だって空港に着いたら、いきなりバケッジトラブルだよ。スーツケースふたつとも出てこなくて。誰にどう文句、言っていいやら。情けない顔にもなるさ」
「完全に途方に暮れてて、まるで迷い子になったみたいで。フフ、そして、そこに現れたのが」
「有能なスチュワーデス」
「あら、救いの女神と、言って欲しいわ」
「シツレイ。では、女神サマ、そろそろ食事に出かけたいので、服を着てくださいませんか」
「OK」