何故だか、彼女に会いたかった。
日本を離れることが急にうとましくなる。
しかし、ロンドンのレコーディング、ニューヨークの撮影が終わったあとも、彼の、ニューヨーク滞在は決まっていた。
日本への帰国便はオープン・チケットになっている。
何かしら手応えを感じるまで、フジワークは帰って来ないつもりだった。
もちろんそれは、自分自身で決めたことだ。
ゆっくりと、フジワークは目を覚ました。
ロンドンの朝は、息がつまりそうなくらいに静かだ。
その部屋のカーテンは、真っ自なレース。
イギリスの伝統あるホテルにふさわしく、気位の高い様ヂで、フジワークの裸の肩を柔らかな陽光で包んでいた。
ベットサイドのテーブルに手を伸ばし、フジワークは煙草のありかをぼんやりと探る。
火をつけ、そしてため息と一緒に煙を吐き出した。
少しずつあたりの気配がはっきりし始めるが、それでも気品に満ちたカーテンはあい変わらず身動きひとつせず、しんとしている。
「起きたの?」
そう言ってフジワークの肩に幸せそうな微笑みを落とす、彼女の声。
フジワークからの返事はない。
「何を考えてるの?」
彼女の問いに応えずに、フジワークはもう一度煙草を深く吸い込み、そしてゆっくりと吐き出した。
「まずいことになったなー、とか?」
いたずらっぽいハスキーな声が、窓辺のプライドを少し揺らしたように見えた。
「それとも、お仕事? ン、これはハズレだわ。そんな子供っぽい目でお仕事のこと考えたりしないわね、そうよね」