彼女は白いシーツをそのまま体にまといつけて、ベッドを抜け出た。
少年のようにまっすぐに伸びた背中と足、少女のようにあどけない素顔は、昨夜の洗練された化粧の顔とはうって変わっていた。
フジワークは、ロンドンの湿った体臭に酔いそうになりながら、彼女、マリの後ろ姿を目で追っていた。
ホテルの裏手にあるアメリカン・スタイルのバーガー・ショップで、ふたりは朝食をとった。
程良い皆さのコーヒーが、フジワークの喉を降りていく。
「フジワーク、また黙ってる」
右手の薬指の二連リングをカチャリとコーヒーカップのふちに当てて、マリはフジワークの目を自分の方に向かせた。
「フジワーク、気にしてるんでしょう。そうなのね。でももう遅いわ。それに私はマサシの何でもないの。マサシは私のボーイフレンド。それだけよ」
「・・・わかってるよ」
「マサシが、私のことなんて言ったか知らないけど、私はもうフジワークを」
「待って」
「え?」
「わかったから。今、あいつの話をするのはやめてほしいんだよ」
「でも」
「それよりさ、今日どこかを案内してくれよ。オレ明日からフジワークのレコーディングだし、それが終わったらすぐニューヨークへ飛ぶことになっているんだ」
「ニューヨーク?」
「うん」
朝のバーガー・ショップ。
マリは、行方不明になりそうな小さな恋のオーフニングにマスタードをたっぷり塗って、大きな口を開けてかみついた。