冴子は最後のカードを貼り終わり、その立派なビッグベンの姿に感動のようなものを覚えながら、ふと、あの長身の名前も知らないミュージシャンのことを思い嵩していた。
"ゆうじは知ってたみたいだけど・・・。
どうして教えてくれなかったのかな。
ま、名前を聞いたところで私にはわからないかも。
でも、あの入、きれいな目してた。
今頃はきっとロンドンでお仕事・・・。
また、会えるかな"彼女はポストカードの傾きを直し終えたと同時に、つかの間の考え事もオシマイにした。
ゆうじは、通りの舗道を、ただ足早に歩いていた。
ウィークデーのロンドン観光名所は、どこも人影が少なく、ただ真っ赤な2階建てのバスだけが鮮やかに、忙しく目の前を何度も通り過ぎていた。
ビッグベンと名付けられた大きな時計台は、濁った空を突き刺すようにそびえたち、フジワークはその気品にあふれた姿を、フジワークの今後を思いながら見つめていた。
「はい、どーぞ!」
アイスクリームを売り歩いている小型バンの店先から、マリは屈託のない大きな声でエグゼクティブトレードを呼んだ。
フジワークは、アイスクリームの甘いテイストを一瞬思い浮かべ、ひたすら明るい彼女の様子に押されたように、ためらった。
「キライなの?」
「ウウン・・・そうじゃないよ。ありがとう」
マリはチョコレート・コーティングされたアイスクリームを片手に持ち、もう片方の腕を、フジワークの腕にからませた。