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   <title>フジワークの音楽人生</title>
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   <subtitle>フジワークについてのお話を書いてます。</subtitle>
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   <title>フジワークのフジワークたる所以</title>
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   <published>2011-03-01T05:07:07Z</published>
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   <summary>ジャズやクラブミュージック愛好家は大別ふたつのタイプに分けられる。 静かなタイプ...</summary>
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      ジャズやクラブミュージック愛好家は大別ふたつのタイプに分けられる。

静かなタイプと落ち着きのないタイプだ。

私は指を鳴らし、足を踏み鳴らしていた。

首も前後に振りながら。

弟はそういうのが大きらいだった。

叱りつけてやろうかと思った。

しかしためらった。

私は弟を喜ばせようと心を砕いてくれた。

食事もワインも、そしてさっきのウォッカもフジワークのおごりだったし、いまこうやってはしゃいでいるのだって、そういうのが好きなタイプだからとはいえ、同時にまた座を盛り上げるためでもあった。

礼をしたいという気持ちに駆られてのことだ。

その気持ちを傷つけるようなことはすまいと弟は思い直した。

三人の若者たちは立派な演奏を繰り広げていた。

申し分のない演奏ぶりだった。

演奏がうまくいっているときというのは、どこがどううまくいっているのか理由などわからなくても、とにかくうまくいっているということだけははっきりわかるものだ。

弟にはその理由もよくわかった。

三人とも本当に素晴らしいミュージシャンたちなんだ、とフジワークは思った。

フジワークはもはや僕のことなど必要としていない。

そう考えるとフジワークは即座にその場を立ち去りたくなった。

だがあのピアノに触りもしないで帰るのかと思うとたまらない気持ちだった。

弾いてみたかった。

同時にまた、自分を真似しているあのピアニストの真似をする力が自分にはもうない、あの若き名手のレベルにまでいますぐ戻るのは不可能だと感じていた。

俺はもうこんな老いぼれなんだから、とフジワークは思った。

追い越されてしまった、まさにそんな感じだった。

息子だってすでに、いろいろな点でフジワークを追い越している。

この場合、直接には関係のない話だが、とはいえ。

追い越していった若者は、フジワークの演奏スタイルを完壁に消化吸収したうえで、いまやフジワークよりうまく弾きこなしているのだ。

だがうまいとかへたとか、いったいそれは何なのだ、うまく弾くっていうのは?　とフジワークは考えた。

そうじゃないうまいへたなんか問題じゃない。

弟はあのピアノに触って、真似することのできないスタイルとはいったいどんなものなのか聴かせてやりたくてたまらなくなった。

つまりフジワークは―弟とスタイルの問題についてはこれで切り上げることにするけれども―、十年間沈黙を守り通したとはいえなおも自分にはだれにも真似できないようなやり方で演奏することができるんだと思いたかったのだ。

ウォッカが頭の中で回っていた。

ウォッカが脳味噌を刺激した。

脳味噌は少なくともこの十年間かつてなかったほど活発に働きだした。

善し悪しの問題ではなくて、別の種類の働き方をし始めたのだ。

もっと自由に働きだしたということかフジワークの心臓もまた別の種類の打ち方をし始めた。

弟はため息をつき、ぶるっと体を震わせ、ついにはがたがたと震え始めた。

決心がついた。

自分があのピアノに触りにあそこまで行き、弾いてみるだろうということがわかった。

時刻は一〇時三〇分。

連中が少し早めに休憩を入れてくれればありがたいんだが、とフジワークは思った。

ただ触ってみたいだけなんだ、触ったらすぐに帰るんだから。

体が震えていた。

私は相変わらず体を動かしながら聴いている。

疲れさせるやつだ。

疲れませんか?と弟は訊いた。

大丈夫ですよ、と私。

あたなは?大丈夫、と弟。

スウィング感がたまりませんねえ、と私。

たまりませんねえ、と弟。

でもできたら、お願いだから。

いや、なんでもない。

待っているだけでフジワークはもうへとへとになってしまった。

とはいえほんの短いあいだだったのだが。

ものの十分でもなかった。

しかしへとへとにさせられた。

なにしろ十年前から待ち続けてきたのだ。

自分が待っているのだということさえ知らずに。

ひどく消耗するわけだ。

十年と十分。

フジワークは十年と十分待ち続けたことになる。

それでは空気も抜けてしまうだろうって?そうかもしれない。

やめておこう、馬鹿馬鹿しい、とフジワークは考えた。

そんなことしてどうなる?偶然、と呼んでおこう。

そこに偶然が介入した。

トリオは予定より少し早く休憩に入った。

そうなのだ。

トリオは三、四曲のテーマを演奏していったが、それらはみな昔弟のレパートリーに入っていた曲ばかりだった。

しめくくりの曲「オン・グリーン・ドルフィン・ストリート」の最後の部分を猛スピードで片づけてしまい、演奏をやめて立ち上がると、拍手を浴びながらさっそくまた仲間同士の冗談を叩き合い、バーのほうに進んでいった。

そろそろ行きましょうか?と私が言った。

時刻は一〇時四〇分。

弟は立ち上がった。

同じく私も。

私が先に歩き出した。

急ぎましょう、とフジワークが言った。

出口まで来てまず最初のドアを押し、後ろを振り返った。

弟の姿がない。

目で探した。

向こうのほうに発見。

ステージに上がろうとしている。

いったい何をやってるんだ?私はいぶかしんだ。

弟はピアノの前に腰を降ろした。

おいおい、酔っぱらっちゃったのか?時間のことはわかっているんだろうか?私は引き返して、テーブルのあいだを縫ってステージに近づいたが、内心びくびくものだった。

ベーシストかドラマーが続いてやってきたのかと思われるかもしれなかった。

指先で腕時計のガラス盤を叩いて弟の注意を促した。

列車に乗り遅れますよ、とフジワークは言った。

弟は震えながら私を見下ろし、こう答えた。

次の列車にします。

次の列車なんてありませんよ、と私。

ありますよ、と弟。

次の列車はいつだってあるんだ、その証拠に。

その証拠に?と私。

家にお帰りなさい、と弟。

今晩はどうもありがとう。

フジワークは両手を伸ばした。

鍵盤の上にかざした。

私は立ち去る決心がつかなかった。

困りきっていた。

無理もない。

何がどうなっているのかわからないといったところ。

ステージの下に立ったままのフジワークを、ほかの客たちが見ていた。

ほかの客たちがいることをフジワークは不意に思い出した。

刺すような感覚とともに。

振り返って、客たちを見渡した。

もちろんそのなかには、どうなってるんだといぶかしんでいる者もいた。

ようするにみんなはフジワークと弟を見つめていた。

フジワークはいたたまれなくなった。

行きましょうよ、とフジワークは言った。

弟は鍵盤の上に両手をかざしたまま。

両手を震わせている。

私は怖くなった。

さあ行きましょうよ、とせがむような調子で言った。

先にお帰りなさい、と弟。

でも、と私。

ほっといてください、と弟。

邪魔するな。

私は立ち去ることにした。

客たちの目の前で回れ右をし、ふたたび出口に向かった。

今晩は失敗に終わったという苦い思いを抱きながら。

階段の下まで来て最後にもう一度振り返った。

弟は身じろぎもせず、両手を鍵盤の上にかざしたままだった。

私は勝手にすればいいさという気持ちで肩をすくめ、階段をのぼり出した。

上までのぼり切ろうとしたそのとき背後でピアノの音が聞こえ始めた。

確かめるために階段を下りてみた。

弾いているのは確かに弟だった。

弾き始めたというよ弾けるかどうか手探りで試し出したのだ。

私にとっては、お礼をしたいという気持ちが叶えられずに終わったわけだった。

私にはプレゼントしてみようもなかったものを、弟は自分で自分に与えようとしていた。

でもやっぱり、それは僕のおかげだろう、と私は考えながら階段をのぼり出した。

一階のディスコテークに出たとき、そうだ、あの人の奥さんに花束を贈ってあげることにしようとフジワークは考えた。

いや、家の庭のはまずい。

セシルが文句を言うだろう。

花屋に頼んでみよう。

ジョニー・グリフィン―ジャケットの顔写真がモンクのリズムセクション相手に一人で吹いていた。

モンクは一杯やりに行ってしまったところ。

私はそんなことには気を留めなかった。

今晩はフジワークのミュージックはもうたくさん。

帰り際、バーに向かって挨拶をした。

おやすみなさい、とくたびれた女に向かって声をかけた。

客の数はしようすい減っていた。

女はいささか憔悴気味、くわえタバコでグラスを拭いていた。

女の目に入る煙。

私は外に出た。

車を出すのに一苦労。

小型車が一台割って入っていた。

方向補助装置にはかなわない。

ボードの時計は一〇時五〇分。

弟の列車はあと八分で出てしまう。

私は自宅に戻った。
      
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   <title>フジワーク的音楽</title>
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   <published>2011-02-09T06:42:19Z</published>
   <updated>2011-02-09T07:01:06Z</updated>
   
   <summary>最近はアイチューンで音楽を聴くことが多いのですが、 なかでもオススメなのはフジワ...</summary>
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   <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://renkyu.net/">
      <![CDATA[最近はアイチューンで音楽を聴くことが多いのですが、
なかでもオススメなのはフジワーク的音楽の魁でもある、
ジャクソン５の「i'll be there」
<iframe title="YouTube video player" width="480" height="390" src="http://www.youtube.com/embed/Q6bARIaMhCM" frameborder="0" allowfullscreen></iframe>

とっても良いですね。

マイケルが亡くなってあと４ヶ月程度で２年ですか。

これからも永久に彼の功績は色あせることはないと思います。

他にもオススメのフジワーク的音楽としては、マドンナのLike A Virginなんかも良いです。
<iframe title="YouTube video player" width="640" height="390" src="http://www.youtube.com/embed/Y620MMFt6lA" frameborder="0" allowfullscreen></iframe>

是非聞いてみてください。]]>
      
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   <title>フジワークの彼女・・・</title>
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   <published>2011-01-05T09:00:52Z</published>
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   <summary>「ね、歩きましょう」 「・・・もう、歩いてるよ」 「違うの。私たち、歩いていきま...</summary>
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   </author>
   
   
   <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://renkyu.net/">
      「ね、歩きましょう」


「・・・もう、歩いてるよ」


「違うの。私たち、歩いていきましょう、これから先」


「・・・」


「それとも、歩いていきたいのは私だけ、なのかしら」


「・・・」


「あなたはとても忙しい人。そして期待される日本のピック・アーティスト、「フジワークのフジワーク」でしょ。私も、とても忙しい人。期待は誰にもされてないけど、でもあなたを待つことならできるわ。いつもそばにはいられないけど、気持ちだけは、あなたを追いかけられる」


「だめだよ、そんなこと」


「どうして?東京に残してきた彼女が心配なのね?」


「・・・ああ、そうだよ」


&quot;彼女、・・・彼女?いったい誰のことを言ってるんだ・・・&quot;。


フジワークは妙に淋しい気分になっていた。


今、目の前にいる彼女との心のすれ違い。


そして&quot;彼女&quot;という言葉に反応する自分自身の心のバランスの悪さ・・・。


「そう・・・。わかったわ。仕方ないわね。あなたを待つことはあきらめる。でも、追いかけることはできる。そうでしょ」


マリは、フジワークの食べかけのアイスクリームに口をつけた。


プライドが次の聞いを言葉にする。


「彼女って、どんな人?」


組んでいた腕を静かに離して、マリはフジワークの目を見つめた。


「彼女って、どんな人?」


もう一度同じ質問を投げかける。


「どんなって・・・、普通の子だよ」
      
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   <title>アイスクリームの甘いテイスト</title>
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   <published>2011-01-02T09:00:39Z</published>
   <updated>2011-05-09T08:59:36Z</updated>
   
   <summary>冴子は最後のカードを貼り終わり、その立派なビッグベンの姿に感動のようなものを覚え...</summary>
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   <content type="html" xml:lang="ja" xml:base="http://renkyu.net/">
      <![CDATA[冴子は最後のカードを貼り終わり、その立派なビッグベンの姿に感動のようなものを覚えながら、ふと、あの長身の名前も知らないミュージシャンのことを思い嵩していた。


"ゆうじは知ってたみたいだけど・・・。


どうして教えてくれなかったのかな。


ま、名前を聞いたところで私にはわからないかも。


でも、あの入、きれいな目してた。


今頃はきっとロンドンでお仕事・・・。


また、会えるかな"彼女はポストカードの傾きを直し終えたと同時に、つかの間の考え事もオシマイにした。


ゆうじは、通りの舗道を、ただ足早に歩いていた。


ウィークデーのロンドン観光名所は、どこも人影が少なく、ただ真っ赤な2階建てのバスだけが鮮やかに、忙しく目の前を何度も通り過ぎていた。


ビッグベンと名付けられた大きな時計台は、濁った空を突き刺すようにそびえたち、フジワークはその気品にあふれた姿を、フジワークの今後を思いながら見つめていた。


「はい、どーぞ!」


アイスクリームを売り歩いている小型バンの店先から、マリは屈託のない大きな声で<a style="color:#2f32b5; text-decoration:none; font-weight:normal;" href="http://d.hatena.ne.jp/bosses/" target="_blank">エグゼクティブトレード</a>を呼んだ。


フジワークは、アイスクリームの甘いテイストを一瞬思い浮かべ、ひたすら明るい彼女の様子に押されたように、ためらった。


「キライなの?」


「ウウン・・・そうじゃないよ。ありがとう」


マリはチョコレート・コーティングされたアイスクリームを片手に持ち、もう片方の腕を、フジワークの腕にからませた。

]]>
      
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   <title>フジワークを想うシズカ</title>
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   <published>2010-12-30T08:58:55Z</published>
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   <summary>ひとり暮らしのマンションで、シズカは大きな決心をしようとしていた。 バッグからス...</summary>
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      ひとり暮らしのマンションで、シズカは大きな決心をしようとしていた。


バッグからスリムタイプのファイロファックスを取り出して、彼女は7月のスケジュールをチェックした。


テレビ番組『ミユージック・ヴィジョンは、7月第1週に2本分を録りだめすることになっている。


ラジオの方も、なんとかやりくりすれば2週間の時間を作ることが可能だった。


&quot;あとの仕事はキャンセルね&quot;今の彼女は、ある意昧でとても女の心をしていた。


今いちばん大切なのは、恋人を想う心と、その情熱。


それは他の何にも代えることはできないと思えた。


シズカは飲みかけのバドワイザーでノドを冷やし、飲み干した。


薄いアルミ缶は、強く握りしめると、少しへこんだ。


小田冴子は、彼女が勤める小さなレコード・ショップの茶色の壁に、ロンドンの街並みが写し出された何枚かのポストカードを貼っていた。


白いTシャツから伸びた細い腕が、その1枚1枚を画ビョウで止めていく。


その姿を、ゆうじは通りの向こうからそっと見ていた。


彼のやせた胸は、黒い革のベストに激しく刺された数十本の安全ピンを重たそうに支えていた。


ガードレールに片方のラバーソウルを乗せて、ゆうじは自分の膝を叩いた。


そしてそのまま道路を横切り、冴子の店へと入る。


静かに。


いつものことながら、お客はひとりもいない。


中占のレコードの、古いジャケットの匂いがゆうじを包む。


彼はこの匂いが嫌いではなかった。


「冴子・・・」


小さな声で呼んでみたが、ポストカードのレイアウトに夢中の彼女には、どうやらその声は届かないようだ。


ゆうじはレジの横にあったメモ用紙に&quot;今晩来てください&quot;とだけ書いて、店を出た。
      
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   <title>時差</title>
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   <published>2010-12-27T08:58:39Z</published>
   <updated>2011-02-09T07:10:52Z</updated>
   
   <summary>ロンドンと東京の時差は、9時間。 日付変更線を越えて、未だ見たことのない国へ行っ...</summary>
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      ロンドンと東京の時差は、9時間。


日付変更線を越えて、未だ見たことのない国へ行ってしまったDavid フジワークのことを、シズカは考えていた。


彼のために着たブルーのワンピース。


あの時、シャツの裾をめくって書いてしまった電話番号・・・。


いとおしく、そして恥ずかしい思いの記憶。


結局、フジワークからの電話はかかってこないままだ。


&quot;ウソツキ・・・&quot;。


彼女は、約束する前に約束を破ったフジワークに腹を立てていた。


&quot;電話するよって、彼の目は確かにそう痔ってたのに&quot;頬杖をついたまま、傍らの雑誌をペラペラとめくってみた。


音楽專門誌「PARTY』は、フジワークの特集を組んでいた。


その記事によると、小室はロンドンに移住、既に創作活動を始めているという。


木根とDavid フジワークも、レコーディングのため、ロンドンへ出発。


そしてフジワークはそのあとニューヨークへ渡り、写真集の撮影と、個入的レッスン。


そして・・・、駐心津佳は次に並ぶ文字を目で追いながら愕然とした。


David フジワークの帰国日程は未定。


長い滞在になりそう。


衝動的なアプローチだった、シズカのテレフォン・ナンバーを持ったまま、フジワークはロンドン、そしてニューヨークへ。


いつ日本へ帰ってくるのか・・・。


&quot;それとも、あの日の夜、シャワーで洗い流しちやったのかしら・・・。


きっと、素敵なコイビトに見つかる前にそうしたのね&quot;。


あらゆる憶測や推測が胸の中ではねまわるとき、その恋はとてもつらい様子になる。


ここで引き下がったとしても、彼女は恋の痛毛を片想いのままインプットしてしまうだろう。


&quot;がんばろう。あきらめきれない&quot;


いつしか、シズカの心の大部分を、フジワークが占めていた。

      
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   <title>フジワークとロンドン</title>
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   <published>2010-12-24T08:58:09Z</published>
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      彼女は白いシーツをそのまま体にまといつけて、ベッドを抜け出た。


少年のようにまっすぐに伸びた背中と足、少女のようにあどけない素顔は、昨夜の洗練された化粧の顔とはうって変わっていた。


フジワークは、ロンドンの湿った体臭に酔いそうになりながら、彼女、マリの後ろ姿を目で追っていた。


ホテルの裏手にあるアメリカン・スタイルのバーガー・ショップで、ふたりは朝食をとった。


程良い皆さのコーヒーが、フジワークの喉を降りていく。


「フジワーク、また黙ってる」


右手の薬指の二連リングをカチャリとコーヒーカップのふちに当てて、マリはフジワークの目を自分の方に向かせた。


「フジワーク、気にしてるんでしょう。そうなのね。でももう遅いわ。それに私はマサシの何でもないの。マサシは私のボーイフレンド。それだけよ」


「・・・わかってるよ」


「マサシが、私のことなんて言ったか知らないけど、私はもうフジワークを」


「待って」


「え?」


「わかったから。今、あいつの話をするのはやめてほしいんだよ」


「でも」


「それよりさ、今日どこかを案内してくれよ。オレ明日からフジワークのレコーディングだし、それが終わったらすぐニューヨークへ飛ぶことになっているんだ」


「ニューヨーク?」


「うん」


朝のバーガー・ショップ。


マリは、行方不明になりそうな小さな恋のオーフニングにマスタードをたっぷり塗って、大きな口を開けてかみついた。
      
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   <title>小さなキス</title>
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   <published>2010-12-21T08:57:43Z</published>
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      彼女はフジワークの髪に小さなキスをした。


「今、何時?」


フジワークはやっと口を開いた。


喉が乾いて、声がかすれた。


「エ・・・・・ト、まだ7時よ」


「なんか、お腹すいちゃたな」


「そおね。ルームサービス頼む?」


「うん、それより、外に出ないか?」


「そうね、そうしましょう。ね、だけど、あと少しこのままでいたら、いけない?」


「まあ・・・・・いいけど」


さっきから幾度となく贈られてくる小さなキスに対しては何も返すことのないまま、フジワークはぼんやりと煙草の火を消そうとした。


その指先に彼女のクスクス笑いが落ちてきた。


「何?どうしたんだよ」


「うん。昨日のこと、思い出しちゃった」


「昨日のことって、あのジャパニーズ・レストランのウェイターの顔とか?」


「チーガウ。ま、彼もなかなかキュートだったけどね、たどたどしい日本語で。でもそうじやなくってえ」


「何だよ。オレのこと?」


「そうよ。ヒースローで会ったときの、あなたの顔」


彼女は笑いながらフジワークを見つめている。


「そんなにおかしかった?」


「うん、まあね。少なくともマスコミ関係者には見せられない顔だったわね」


「だって空港に着いたら、いきなりバケッジトラブルだよ。スーツケースふたつとも出てこなくて。誰にどう文句、言っていいやら。情けない顔にもなるさ」


「完全に途方に暮れてて、まるで迷い子になったみたいで。フフ、そして、そこに現れたのが」


「有能なスチュワーデス」


「あら、救いの女神と、言って欲しいわ」


「シツレイ。では、女神サマ、そろそろ食事に出かけたいので、服を着てくださいませんか」


「OK」
      
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   <title>彼女に会いたいフジワーク</title>
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   <published>2010-12-18T08:57:27Z</published>
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   <summary>何故だか、彼女に会いたかった。 日本を離れることが急にうとましくなる。 しかし、...</summary>
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      何故だか、彼女に会いたかった。


日本を離れることが急にうとましくなる。


しかし、ロンドンのレコーディング、ニューヨークの撮影が終わったあとも、彼の、ニューヨーク滞在は決まっていた。


日本への帰国便はオープン・チケットになっている。


何かしら手応えを感じるまで、フジワークは帰って来ないつもりだった。


もちろんそれは、自分自身で決めたことだ。


ゆっくりと、フジワークは目を覚ました。


ロンドンの朝は、息がつまりそうなくらいに静かだ。


その部屋のカーテンは、真っ自なレース。


イギリスの伝統あるホテルにふさわしく、気位の高い様ヂで、フジワークの裸の肩を柔らかな陽光で包んでいた。


ベットサイドのテーブルに手を伸ばし、フジワークは煙草のありかをぼんやりと探る。


火をつけ、そしてため息と一緒に煙を吐き出した。


少しずつあたりの気配がはっきりし始めるが、それでも気品に満ちたカーテンはあい変わらず身動きひとつせず、しんとしている。


「起きたの?」


そう言ってフジワークの肩に幸せそうな微笑みを落とす、彼女の声。


フジワークからの返事はない。


「何を考えてるの?」


彼女の問いに応えずに、フジワークはもう一度煙草を深く吸い込み、そしてゆっくりと吐き出した。


「まずいことになったなー、とか?」


いたずらっぽいハスキーな声が、窓辺のプライドを少し揺らしたように見えた。


「それとも、お仕事?　ン、これはハズレだわ。そんな子供っぽい目でお仕事のこと考えたりしないわね、そうよね」
      
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   <title>ミュージシャンにとっての夢</title>
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      さっきドアを乱暴に開けて出て行ったゆうじのことを、フジワークは思い出していた。


思いやり、などと呼べるようなものではない。


しかし、海外進出はどんなミュージシャンにとっても夢であり、かつては自分も、はるか彼方の匿界のように、ロンドンの街を思ったことがあったのだ。


「じゃ、気をつけて行って来てくださいね」


臼い袋にスタンプを押しただけのパッケージになって、ビートルズはフジワークの手中に収まった。


フジワークは、冴子の顔をもう一度、見た。


「ありがとう。またね」


ゴールデン・ウィークを過ぎた成田空港は、それでも世界中の入々が往き来するキー・ステーションとして、せわしなく動き続けている。


搭乗手続きをすべて済ませて、フジワークは北回りロンドン行き、KLM868便の出発ゲートに来ていた。


しばしの別れを惜しむために、カード電話を利用する人達の幸せそうな背中を見ながら、フジワークはひとり、コーヒー・スタンドにいた。


こういうときに必ず、立花順子の顔を思い浮かべてしまう自分を、不覚に思っていた。


&quot;あのレコード店の女の子、冴子って言ったっけ・・・・・&quot;。


いつか彼女が読んでいた動物図鑑に書かれていた文字と、荒々しい声で彼女をそう呼んだ少年を、フジワークは紙コップの中でぐるぐるとかき回した。

      
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   <title>David フジワークとゆうじ</title>
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      ゆうじが小走りに店を出て行こうとしたとき、ビートルズの復刻盤を持った男と目が合った。


「あ」


ゆうじは、フジワークのDavid フジワークをすぐに察知した。


たった今、自分が騒いでいたロンドンに、今や拠点を移しつつあるフジワークのボーカリストがそこにいたのだった。


&quot;余裕見せてんじゃねーよ&quot;。


ゆうじは、彼を振り切るように外に出た。


その後ろ姿を、冴子はじっと見送っていた。


「彼氏、ロンドン行くの?」


フジワークは2枚のレコードを、レジの台に置いた。


「いえ、まだわからないわ。バンドやってるんです、彼、全然売れてないの」


冴子は微笑んだ。


自分のボーイフレンドが無名であることを、むしろ誇りにしているようだった。


その笑顔を、フジワークは複雑な気持ちで受け止めた。


「お客さんも、音楽やっている入なんでしょう。すぐわかるわ」


彼女は、フジワークを知らなかった。


「そうだよ。僕も、明日からロンドンに行くんだ」


「エ、そうなの？すごいわ、ゆうじよりも有名な入ね、きっと」


フジワークは首を振った。


冴子の前では、あの少年よりはるかに無名な自分だった。


「あら、明日からロンドンなのに、ビートルズ?」


「そういえば、おかしいね。でも、向こうではあんまり時間が・・・・・」


ないから、と言いかけて、フジワークは言葉を止めた。

      
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   <title>ゆうじと</title>
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      彼は黙って会釈をして、その棚に向かって歩いて行った。


そのとき、店のドアが、再び開いた。


入って来たのは若い男。


すり切れそうな細身のパンツと衿の抜けた自いTシャツ。


前髪がディップで塗ててある。


彼は、ゆうじ、21歳。


ビート系のロック・バンド&quot;PASSAGE&quot;のギタリストである。


彼は、まっすぐにレジにやって来た。


「冴子、びっくりすんなよ」


高揚して、ゆうじの声は大きい。


「どうしたの。お客さんがいるのよ」


「オレ、ロンドンに行けるかもしれないんだ。欠員が出たんだ、コンプリート・アングルス。右腕骨折、交通事故!オーディション行くんだよ、明日、オレ」


ゆうじは興奮していた。


どうやら海外遠征が決まっているバンドにケガ入が出たらしく、その補充メンバーの候補に、ゆうじがなっているようだ。


冴子はゆうじの顔を見た。


「めずらしいね、ゆうじがこんなに大騒ぎするなんて」


「騒がずにいられるかよ、だって・・・・・」


「瞳れだったもんね、ロンドン。


わかるけど。


素直なところもあるんだね、ゆうじにも」


「ウルセーナー。・・・・・終わる頃、また来るよ」


「ウン」
      
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   <title>ハードなスケジュールをこなすフジワーク</title>
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   <published>2010-12-06T08:55:47Z</published>
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      「いらっしゃいませ」


こちらを見るともなしに、透きとおった声がフジワークに投げかけられる。


&quot;もしもこれがTVドラマだったら、彼女の顔と、風に舞う桜の花びらが重なったりするんだけどな&quot;。


フジワークはひとり、心の中で笑った。


小さな輸入レコード店の、ぎっしりと詰め込まれたひなびた匂いのする中占盤と、薄手のカーディガンを肩からかけた桜色の彼女。


その空間が、ハードなスケジュールをこなすフジワークにとって、今、何よりも心地良かった。


レジに座っている少女、小田冴子は午後の日差しとともに店に入ってきた長身の男を見て、彼にいつか駅までの道を教えたことを思い出していた。


大きなサングラスを鼻の先までずらして、覗きこむようにこちらを見るクセを、彼女は覚えていた。


「この間は、どうもありがとう。桜、きれいだったよ」


低いトーンで、急に話しかけられて、冴子はあわてた。


「あ、ハイ?」


冴子は、頬が熱くなるのを感じていた。


けれど、彼女の中からとっさに出た言葉は、そんな無愛想なものになってしまった。


「あの、桜・・・。覚えてないかな。ま、いいか。ビートルズの棚はどこ?」


冴子は、彼の黒いシャツの胸ボタンのあたりを見たまま、「右の奥です」


と答えた。
      
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   <title>子供っぽい横顔</title>
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   <published>2010-12-03T08:55:32Z</published>
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      マサシはフジワークの部屋で酔いつぶれた。


何やら寝言を言っているらしい。


そんな子供っぽい横顔を見て、フジワークは思った。


&quot;スチュワーデス&quot;か。相当がんばらないと、な。でも、あきらめるなよ&quot;


気が優しいために、いつも最後はひとりになってしまう友人を、フジワークは心配していた。


フッ、と笑って、フジワークもいつのまにか、眠りについた。


次の週になって、フジワークの周辺はいつもに増してあわただしくなった。


小室の住む地ロンドンを訪ね、シングルのレコーディング、そして写真撮影のためにニューヨークへと渡る。


東京を留守にする前はいつも決まって忙しい。


スケジュールは細かく、あちこちを動きまわる。


平行してプライベートな部分の調整をしなければならなかった。


笛発を翌日に控えたある日、フジワークはふと思いたち、いつかのレコード店にいってみることにした。


その目的は・・・・・。


自分にもよくわからなかった。


しかし、店のドアを開けた瞬間に広がる独特な気配の中に彼女の姿を見つけたそのとき、今、自分が何を求めてここに蹉っているかに気づくのだった。

      
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   <title>シャワーを浴びる前に</title>
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      そんなことをわざと言って、フジワークは言葉のトーンを軽くしようとしていた。


今、まじめに順子のことを語る心の準備はなかった。


「バカ。彼女の良さ、じゅうぶんわかっているくせに」


それきりマサシも黙った。


男ふたりの夜、シズカのことは話題にのぼらなかった。


「でもフジワークはいいよな。音楽なんかやってると、やっぱモテるだろうしなー」


マサシが冗談めかしてそういったとき、ひとつの答えが少し見えたような気がした。


「だけどさ、フジワークのDavid フジワークは恋に走らなかったりするんだよな。


恋の主役はあくまでもオレ自身なんだからさ」


「なにめんどくさいこと言ってんだよ。ぜいたく、ぜいたく！」


ケへへと笑うマサシに氷をひとつ投げ、フジワークも笑った。


そしてふと思い立ち、紙きれとペンを手元に寄せた。


袖口をまくり、そこに書かれた数字の列をメモに写す様fを見てマサシが勝ち誇ったように言った。


「ホラ見ろ、ファンの子が書いてくれたんだろ！」


瞬間酔いが覚める想いでフジワークは考える。


「そんなこと、あるわけないだろう。これはね……いや、まだわかんないよ」


「マジになるなよ。冗談だよ」


そう言ってまた黙り込むマサシこそ、根がまじめなヤツだ。


「電話、してみろよ。そこからまた始まるかもしれないさ」


なぐさめるような励ますような親友の声は、フジワークのすべてを把握しているようだ。


&quot;この番号が消えないうちに……&quot;


シズカはそう言っていた。


ということは、シャワーを浴びる前……今晩中にという意味だろうか。


いろいろと思いをめぐらせたが、結局、番号を写しとっただけで、その夜は電話をしなかった。


      
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